5000年以上前から栽培されているといわれ、多くの場所で栽培しやすい背景もあり、世界中で食べられているさつまいも。
そんなさつまいもですが、日本に暮らしている方にとって、さつまいもは「さつまいも」ですよね。甘藷(かんしょ)や唐芋(からいも)とも呼ばれますが、どれもさつまいもを指します。そして、英語では「Sweet Potatoes (スイートポテト)」!
しかし、アメリカやカナダなど北米で暮らしている人に「さつまいもって何て呼んでる?」と聞くと、「Sweet Potato(さつまいも)」のほかに「Yam(ヤム芋)」という答えが返ってきます。
以下の写真はバンクーバーのスーパーで撮影したものです↓
上の写真を見ると色んなさつまいもが販売されていますが、売り場の値札にも「Sweet Potato」と書かれているものもあれば、「Yam」と書かれているものもあります。(黄色の吹き出しが Sweet Potato 表記 / 紫色が Yam)
アメリカやカナダにお住まいの方は、「え・・・Yamって書いてあるものも、さつまいもじゃないの?」「Yam と Sweet Potato って何か違いがあるの?」という疑問を感じたことがある方もいるかもしれません。「違いはよく分からないけど、とりあえず買ってる」という方も多いかも?
そこで今回は、カナダやアメリカで見られるこの「Sweet Potato と Yam は何が違うのか?」という謎を解決するべく調べてみたので、一度読んでみてください。
(※アメリカ・カナダ以外にも英語圏で同じように Yam と Sweet Potato が混同している国があるかもしれません)
この記事の目次
はじめに:そもそも Yam と Sweet Potato は一緒のものなのか?
結論からいうと、別ものです。
「Sweet Potatoがさつまいも」のことで、「Yamはヤム芋(ヤムイモ)」を指します。
さつまいもはヒルガオ科サツマイモ属の植物で、中南米の原産。貧しい土壌でも育ちやすい面があり、世界中で栽培されています。
逆に、ヤム芋はヤマノイモ科ヤマノイモ属の中で、塊根(=芋)を食用とする種の総称。ヤマノイモ属には長芋や自然薯など約600種が含まれるそうですが、バンクーバーを含め熱帯・亜熱帯気候ではない北米の地域で見かけるのは長芋くらいかもしれません。
ヤム芋は特にアフリカや熱帯アジアなんかで主に栽培されています。
なので、売り場でさつまいもの値札が「Yam」になっているのは、正確に言えば間違いです。
以下のビデオのような、こん棒(武器?)のようなヤムイモを皆さん見たことがあるでしょうか?さつまいもとは全然違うのが見た目でも分かりますよね。
Yam と Sweet Potato の呼び名はどのように分けられているか?北米で人気のあるさつまいもの種類2つ
続いて、さつまいもにおいて Yam と Sweet Potato の呼び名はどのように分けられているかについて説明します。
アメリカやカナダにお住まいの方なら知っているかと思いますが、北米では以下のさつまいも2種類が人気があります。(加えて、日本のさつまいも Japanese Sweet Potato も大人気ですが、今回は省略します)
1. 果皮がクリーム色っぽくて果肉が白っぽいさつまいも⇒「Sweet Potato」と言われがち
まずは果皮が滑らかでクリーム色のさつまいもです。(日本ではそこまで見ないタイプだと思います)この果皮がクリーム色のさつまいもは、Yamではなく「Sweet Potato」と表記されがちです。
アメリカでは昔から長い間このクリーム色のさつまいもが栽培されています。果肉は白っぽくて、ベークすると薄黄色っぽくなります。甘さはそこそこありますが、日本のさつまいもに比べたら少な目です。(個人的感想)
また、他のさつまいもに比べて水分量が少なく密度が高いため、「dry(ドライ)」「firm(しっかりしている)」とよくいわれます。ジャガイモ的な食感に近いかもしれません。
ちなみに、Hannah と呼ばれる品種が一般的です。ローストしたり、炒め物に使ったり、フライドポテトなど揚げ物、マッシュポテトに使ったりします。
2. 果皮が銅色っぽくて果肉がオレンジのさつまいも⇒「Yam」と言われがち
こちらもアメリカ・カナダで超一般的なさつまいもで、オレンジ果肉タイプです。果皮は写真の通り、銅色(?)っぽい感じです。
先ほど紹介した果皮がクリーム色のさつまいもが主流だった中、20世紀初頭頃から人気を博した品種といわれています。この果皮が銅色っぽいさつまいもは「Yam」と表記されがちです。(Sweet Potatoと書くお店も多々ありますが・・・)
先ほど紹介したクリーム色の果皮のさつまいもに比べて水分量が多いため、しっとりとした柔らかい歯応えで糖度も高めといわれています。ただ、こちらも個人的には、日本のさつまいもに比べたら甘みは少なめに感じます。
Jewel や Garnet、Beauregard といった主な品種があります。バンクーバーでさつまいもの品種名が書かれて販売されているものはあまり無いのですが、先日たまたまオーガニック系スーパー WholeFoods で Jewel を見つけました。
また、アメリカ・ワシントン州シアトルのUwajimayaでBeauregardも発見!正直見た目だけでは、品種の違いは分かりません・・・汗
このオレンジ果肉のさつまいもも、マッシュポテトやスイーツ、ヤムフライ(フライドポテトのさつまいもバージョン)などに人気です。
あとは、感謝祭(Thanksgiving Day)によく食べられている Candied Yams も、こちらのオレンジ色果肉のさつまいもが主流かと思います。
ではなぜ2種類のさつまいもが Yam と Sweet Potato に分けられて呼ばれるようになったのか?
今までのおさらいをすると
- Yam(ヤム芋) は Sweet Potato(さつまいも) とは全くの別ものなのに、今もなぜかさつまいが Yam と呼ばれている
- クリーム色で白っぽい果肉のさつまいもは古くからアメリカで栽培されている。Sweet Potato と呼ばれがち
- 銅色でオレンジ色の果肉のさつまいもは、20世紀初頭頃から人気になったさつまいも。一般的にクリーム色果皮のさつまいもより糖度が高い。 Yam と呼ばれがち
ということが分かりましたよね。では、なぜこの2種類のさつまいもが違う呼び名になったのかについて説明します。色々と調べてみると、主な原因は2つあるようでした。
原因1. アフリカの奴隷がサツマイモをニャミと呼び、それがYamになった
調べていて、さつまいもが Yam と呼ばれる原因の一つにアメリカの奴隷文化が関わっていたことが分かりました。
Louisiana Sweet Potato Commissionのウェブサイトによると、アメリカで奴隷として働いていたアフリカ出身の人たちが、サツマイモを「ニャミ」と呼んでいた頃があるそうです。
なぜニャミと呼んでいたかというと、さつまいもは、奴隷の方たちが故郷で食べられていたでんぷん質の食用塊茎(ヤム芋)を彷彿とさせたから。そして、セネガル語の「ニャミ(nyami)」が「ヤム(yam)」に短縮されたそうです。
ただ、これが一体いつ頃の話で、オレンジ色の果肉のさつまいもに対してだけニャミと呼んだのかどうかは調べても分かりませんでした。(けっこう調べたんですが・・・詳しく知っている方がいたらぜひこちらから教えてください)
原因2. マーケティングのためにオレンジ色の果肉のさつまいもを「Yam」と呼んだ
2つ目は、マーケティングです。
Louisiana Sweet Potato Commissionのウェブサイトによると、アメリカ南部ルイジアナ州のさつまいも農家が、自分たちの育てるオレンジ色の果肉のさつまいもと従来のクリーム色の果皮のさつまいもを区別化するために、数十年前に「Yam」という用語を全国的なマーケティングツールとして使用し始めたそうです。
先ほどお伝えした奴隷の方たちがさつまいもに対して使っていた「Yam」がどこまで影響しているのかは分からないのですが、ルイジアナ州ではヤム芋を拝む機会というのはかなり限られていた(≒農家の人たちはアフリカで育てられているようなヤム芋を知らなかった)ので、「Yam」という紛らわしい名前でオレンジ色果肉のさつまいもを呼ぶようになったのではないかと、野菜ソムリエHiroは勝手に思っています。(※あくまで想像です)
いやー、紛らわしいですね~汗
最後に:アメリカやカナダのスーパーや八百屋で Yam と Sweet Potato の表記の違いを探してみたら意外と面白いかも
ということで、Yam と Sweet Potato の違い、そして名前が混同されるようになった背景についてお伝えしました。(奴隷の方々の背景は悲しいものがあります・・・)
ちなみに、アメリカ農務省(USDA)は「Yam」とラベルが付いたものにも「Sweet Potato」という用語を使用するように要求しているそうですが、北米にお住まいの方ならご存知の通り、全く解決していないように見えます。(悲しい・・・)
アメリカやカナダにお住まいの方は、今度スーパーや八百屋に行ったらさつまいもの値札の表記をちょっと気にして見てみると、案外面白いかもしれませんよ。
そして、皆さんの周りに Yam と Sweet Potato の違いを知らない人がいたら、ぜひ教えてあげてください。