野菜ソムリエ Hiro のベジフルポケット

仏の手みたいな果物、仏手柑(ブッシュカン)がベトナムで多く出回る理由

      2024/02/17

2023年4月にベトナム・ハノイを旅行した際、市場や多くの観光客の拠点である旧市街地エリアを歩き回って気付いたことが一つありました。それは、ブッシュカン(仏手柑)が非常に多く販売されていたことです。

DonXuan-Market-3(ドンスアン市場で販売されていた大量のブッシュカン)

野菜ソムリエHiroの主観だと、ブッシュカン(仏手柑)は日本やカナダではあまり一般的には出回らない果物で、売られていてもごく少数という印象。この記事を見てくださっている人の中にも「ブッシュカンって何?」という方もいるかもしれません。

そこで今回は、ブッシュカン(仏手柑)についての紹介と、なぜベトナムでブッシュカン(ベトナム語だとquả phật thủ)が大量に販売されるのか調べてみました。

はじめに:ブッシュカン(仏手柑)ってどんな果物なの?

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アジア原産のブッシュカンは仏様の手に似た見た目の果物であることから、「仏手柑」(英語だとBuddha’s hand)と書きます。ミカン科ミカン属の常緑低木樹で、レモンに似ている果物「シトロン」の変種といわれています。

上の写真はベトナムの市場で売られていた未熟な状態のブッシュカン(緑)で、これが熟すと黄色になります。その特異な見た目から「どうやって食べるの?」とよく聞かれるのですが、中はほぼ果汁がなく白い綿のみなので、そのまま食べることを期待して買うと失敗してしまいます。

b35(カナダで冬になると手に入るアメリカ産ブッシュカン。基本黄色く熟したものも売られています)

主に観賞用として楽しむブッシュカンは、茶の湯の席の生け花などに用いられることがあります。

観賞だけでなくブッシュカンを食べたいという方は、果皮を削ってサラダのドレッシングやパンケーキなどにも利用できます。またブッシュカンの砂糖漬けもつくることができます。(苦いので、しっかり茹でこぼす必要あり)

個人的には観賞用としてブッシュカンを楽しむのが好きですが、皆さんはいかがでしょうか?

 

ベトナムでブッシュカンがたくさん販売される理由は「祈る習慣」

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本題のベトナムでブッシュカンがたくさん販売される理由ですが、結論から言うと、ベトナムの人たちは信仰が深く、祈る習慣があるのが理由と言えるかと個人的に思っています。(宗教ではない)

そもそも、ベトナムに限らずアジアの多くの文化においてブッシュカンは「長寿」「幸福」「幸運」を象徴する縁起の良い果物として扱われています。日本でもブッシュカンは同様の意味合いで、お正月に飾られたりします。

特にベトナムでは家やお店に仏壇(祭壇?神棚?)があるのが一般的なので、縁起の良いお供え物として皆さんブッシュカンを購入しているんですね。

IMG_3109(ハノイ旅行で宿泊先のホテルの1階にあった祭壇)

ベトナムフォトジャーナルというウェブサイトには以下のように記されていて、ベトナムの方が祖先を非常に大事にしていることが分かりました。

ベトナム人は自分の祖先が神聖であり、死んだ後、子孫が困難に直面するとき、祖先は子孫を援助し、子孫の成功に対して、喜ぶことを信じる。この観念はベトナム民族の精神生活に重要な位置を示す。

ベトナムフォトジャーナル:ベトナム人の像における信仰

IMG_1679(ハノイで見かけたお店の入口にあった仏壇)

IMG_1938(ハノイで見かけたお店の入口にあった仏壇)

たしかにハノイの街を歩いていると入口あたりに仏壇があるお店をたくさん見かけました。バナナやマンゴー、リンゴなどの果物をお供えしてあったのですが、これは商売繁盛や土地を守ってくれる神様の仏壇ということでした。

temple-vietnam-24(クアンタム寺で撮影。バナナの上にブッシュカンがある)

もう一方で、ハノイの観光地であるクアンタム寺を訪れた際には、ブッシュカンが実際にお供えしてある光景も確認することができました。

神様に果物をお供えするというのは日本と変わらないかと思うのですが、ベトナムの方が祈る習慣がより生活に深く根付いているのではないかと、現地を訪れてなんとなく感じました。

temple-vietnam-13(クアンタム寺で撮影。マンゴーやオレンジといっしょにブッシュカンが供えられている)

 

仏手柑(ブッシュカン)の産地 ダックソー(Đắc Sở)と旧正月「テト」について

ベトナムとブッシュカンについて調べていて最後に辿り着いたのは、ベトナムのブッシュカンの産地として知られるホアイドゥク県(Hoai Duc)のダックソー(Đắc Sở)という地域でした。ハノイの旧市街地からは車で約45分くらいのところにあります。

こちらのベトナム語の記事を翻訳してみると、ダックソーでは2000年代初頭にブッシュカンが植えられて以来、次第にブッシュカンが人々に知られ、お供え物として人気になったということです。今では国内市場はもちろんのこと、マレーシアやロシア、イングランドやドイツなどの国外への輸出向けにもブッシュカンを供給する場所として有名です。

扱いが難しい木として知られていますが、ブッシュカンは1年中収獲され、品質の良いものは高く売れる面もあり、今ではダックソーに暮らす多くの人がブッシュカンを育てているそうです。

以下のダックソーの農家を取り上げたBusiness Insiderの動画では、「形が整っていて立派なものによっては 170ドルにもなる」と語られていました。(おそらくアメリカドル計算)

 
特にベトナムで最も重要な祝祭日である「テト」(Tết:旧正月 / 春節)の時期は、ベトナムの人たちが新年の幸運、繁栄などを祈って祖先の仏壇に果物をお供えするため、ブッシュカンも収獲・販売も最盛期に。

ダックソーでは、テトに間に合うように大量のブッシュカンが収獲されると上の動画で語られていました。農家の方によると、テトではない普通の日には1つの木に20~30くらいの果実がついているが、テトが近付くと、60~70、多いときには100もの果実がついているとのことでした。

また、ブッシュカンは雨に弱く、雨が降る中で収獲すると腐りやすいので、その際は梱包する前に乾かす作業が必要と語っていました。(フィンガー部分が飛び出していたりすると壊れやすい(?)ので梱包にも気を遣います)

さらに、一度木が傷むと再び植えることはできないため、1回のミスが数年利益が出せない状況にもなり得るそうです。

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ちなみに同じ木でも全然違うカタチのフィンガー部分になり、季節によっては長くなったり、短くなったりもするということです。

 

最後に:日本でもブッシュカンは手に入ります

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ということで、観賞用に人気のブッシュカンがベトナムでこれだけ出回っているのは、ベトナム人の皆さんの信仰深さが関わっているのだと思いました。

ちなみに野菜ソムリエHiroが暮らすバンクーバーではアメリカ産のブッシュカンが手に入るのですが、ベトナムのものに比べるとカタチがバラバラで細いイメージがあります。

その地の土壌や気候、栽培方法はもちろん、品種も異なる可能性がありますが、野菜ソムリエHiroがハノイで見かけたブッシュカンはどれも本当に立派な見た目で、生産者の腕が相当良いのだろうと感じました。

皆さんもベトナムを訪れる機会があれば、ぜひブッシュカンが出回っていないかチェックしてみてください。また、日本にお住まいの方でまだ手に入れたことが無いという方は、ぜひ探してみてください。日本でもブッシュカンを栽培している方がいらっしゃいますよ。

ブッシュカンの産地 Đắc Sở

岡山県庁(岡山県ベトナムビジネスサポートデスクレポート)
ベトナムにおける旧正月(テト)について

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Why Buddha’s Hand Citron Is So Expensive | So Expensive | Insider Business

 

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