【本のまとめ/感想】野の食卓(甘糟幸子)
2019/12/31
自然との共存生活を楽しむ著者によるみずみずしい野のエッセー。
スローライフという流行語が生まれる前に生まれた本です。
1978年に文化出版局から出版された単行本『野生の食卓』の改題・文庫化。
印象に残った部分を抜粋
七草
七種類の草は「せり・なずな・おぎょう・はこべら・ほとけのざ・ずずま・すずしろ、これぞななくさ」
七草を食べる時期においしいと思うのは、水辺や湿地に生えているセリくらい。他の草は寒さに体をこわばらせてでもいるように筋ばって、まだ春の香りもしない。
七草と呼びますが、正確に七種の草を使うことに意味があるわけではありませんから、私はセリを中心にして、やわらかそうな草を適当に加え、あとは「すずな、すずしろ」と呼ばれている蕪、大根の葉を使います。
青い葉をトントンと、細かく刻み、塩味のお粥にまぜただけの七草粥は、お正月のごちそう続きのあとでは、さっぱりしていて好ましいものです。
七草の行事には、栽培野菜を持たなかった昔、長い冬が終わって、待っていた草の芽が萌え出してきたのを祝う気持ちがこめられていたはずです。
1月7日七草の日!無病息災を祈るために春の七草粥を食べよう!
タンポポ
タンポポは、黒ずんだ葉を地面にぴったりとへばりつけるようにして冬を越しますが、春になると、やわらかな葉を持ち上げるようにしてのびてきます。美味しいタンポポは、道端などでたっぷり陽ざしをあびているものの中にはありません。大きな木の陰とか山裾などに、枯草の間に薄緑色の若葉をほんの3,4枚だけ立てるようにしてのばしているのがあったら、これは間違いないでしょう。
ふつうは、タンポポは苦みの強い草。灰汁か重曹を入れたお湯で湯がいて、水を替えながら、半日か一日くらい水にさらしてから使う。
七草の時期のやわらかいタンポポに限って、生のままでも使える。
サラダを作るときに、水洗いしただけのタンポポの葉をちぎって加えてみたり、たくさんあるときには、タンポポだけをドレッシングで和え、サンドイッチにはさんでみたりします。スパゲッティをゆでて、さっとバターで炒めたところへ、刻んだタンポポの葉を加えて、塩、コショウだけで食べてみるのも楽しいものです。
灰汁で茹でて1日水にさらしておいたものを、鰹節を入れ、味醂、醤油半量ずつの汁の中でいりつけるようにして煮上げるのもいい。
フキノトウ
生のまま刻んで生味噌と合わせて食べてみます。生のまま刻んだものは、お味噌汁に浮かせてみても、春の香りがしてよいものです。姿のまま天ぷらに揚げたり、ふくませ煮にしたり、つくだ煮を作ったり、ゆでてから味噌と炒めたり。
ツクシ
ツクシは摘む期間がわりに短いので、春先にゆっくり旅行などしていると、頭のほうけた、水気のないツクシばかりが残っていたり。
タラの芽
タラノキという棘の多いウコギ科の灌木の枝先に出る新芽をもいだもの。おいしいのはもぎたて。
クルミで和えてもいい。天ぷらにはどんなタラ芽でも使えますが、和え物にするには、とげの少ない上質なタラ芽のごくやわらかな時を選ぶ。やわらかい芽を灰汁でゆでたら、しばらく水にさらしてあく抜きをします。
こごみ
あくがないので、茹でただけで使えます。
クルミ和えもいい
タケノコ
タケノコは頭の先がちょっと見える、というくらいのところを、地中から掘り出すのです。八百屋で売っているくらいの大きさのが地上に出ていたら、たいていかたくなりすぎていておいしくはないでしょう。
タケノコの土のついている根の部分をそぎ落とし、先っぽを斜めに落とし、皮の部分に縦に包丁目を入れて、釜に入れて火を焚きます。
タケノコは掘ってから時間がたつほどにえぐみも強くなり、香りもなくなってしまう。
1時間ほど火を焚き、あとはそのまま冷めるのを待ちます。やわらかそうなのは、タケノコの刺身などと称して、皮を剥いたら切っただけで醤油を少しつけて食べます。
金柑
甘煮にするときは、よく洗ってから、3ミリくらいの間隔で縦に包丁目を入れます。やわらかくなるまで茹でたら、ゆで汁はとっておいて、金柑の種をつまようじでかきだします。金柑にゆで汁をかぶるくらい入れ、砂糖を加えて紙蓋なり落し蓋なりをして、とろ火でゆっくり煮詰めます。
金柑 : Kumquat
山ウド
つつじの頃には、山ウドが盛りです。春早くに芽を出したものは、もう茎がこわくなり、丈も2,30センチにのびています。こんなのは芽先を5センチほど摘んで、天ぷらにします。のびすぎた山ウドを生で食べるときには、芽先の皮を、下の方を1センチほどつけたまま少し厚めにむいて、氷水をはった器に放して、そのまま食卓に出します。つつじの花など一輪浮かせてみると、涼し気できれいなひと皿に。
うまく落ち葉をかぶっていたものや、早くに芽を出して一度刈り取られてから、また新芽を出したものなどは、芽先から白い根元まで全部食べられます。特に、太く白い根の部分のとりたてを、皮を剥いただけで、生味噌をつけて食べるのがおいしい。
茎の部分は、切りそろえて皮をむき、酢水に放してから薄味で煮たり、鍋料理の材料に。
細切りにして、酢味噌やゴマであえる料理は、栽培品のウドでよく作る人があるようですが、山ウドでなら、丸のままの味噌漬けのほうが、野趣があっておいしいと思います。根元の白いところも、芽先も、茎も使えます。味噌に味醂かお酒、醤油など好みの量だけ入れて、まぶす程度にして30分ほどくと、もう味が染みてカリカリと食べられます。
山ウドは山という名前はつきますが、原っぱでも空き地にでも、雑草のように生えています。
オカヒジキ
ヒジキそっくり。緑のヒジキ。私はこれをさっと茹で、ナマリのほぐしたものと、ノビルを薄切りにして塩もみしたものとを合わせて、二倍酢をかけた料理を作ります。
お味噌汁
焼いたナスの皮を剥いたものとミョウガの薄切りに、三州味噌をだし汁でのばしてはったものです。
この味噌汁の作り方を教えてくれた友人は、「なすの皮をむくとき、手に水をつけないで、お酒をつけるのがこつなんですって。そこがプロとアマの差になるのよ」と言います。
アケビ
秋になって、私がいちばん待ち遠しく思っているのは、高い木の上のほうにぶらさがっているアケビの実です。
紫色で大きな実がミツバアケビ、褐色で小型なのがゴヨウアケビ。
ゼリー状の果肉を口に入れてみると、薄甘くって懐かしいような味がします。甘さははっきりと感じられるのに、押し付けがましさのない甘さなので、これが自然の味というものかしら、と感心させられます。
アケビ (著 : 牧野 富太郎)
ムカゴ
自然薯のつるにつく肉芽は、ジャガイモのミニチュアみたいなカタチをしています。塩ゆでにしたり、いりつけたりして食べます。いかにもひなびた味わいがあります。ジャガイモや里芋、大和芋など、イモ類の公約数のような味といってもよいかもしれません。
ムカゴはアケビの実が口をあける頃にはもう大きくなっていますが、本当に美味しくなるのは、あたりに紅葉が始まって、自然薯の葉も美しい黄金色に変わってからです。でも、大きくなったムカゴは軽くつるに止まっているみたいで落ちやすいもの。葉が黄色くなってから、もっと枯れてからのほうが美味しい。
ムカゴはコレステロールの妙薬だそう
自然薯 / とろろ芋
秋、つるにムカゴをつけていたヤマノイモは、冬に入ると、土の中で根を太らせています。これが自然薯とか、山芋とか呼ばれている自生のとろろ芋なのです。地中の山芋も、冬になってつるがすっかり枯れてしまってからでなければ、こくのあるとろろ汁はできないもの。
友人に言われました。「自然薯は皮をむいちゃ駄目よ。皮はたわしでこするくらいで、ひげだけ火で焼き切るものよ。皮に風味があるから、皮のまますらなくっちゃ」
– まずたわしでよく洗い、ひげを焼き切る
– おろし金は目のごく細かいものを使う。または、すり鉢の目でする。
– だし汁は、昆布だし少々に煮干しのだしで、吸い物より濃いめのものを作る
– 卵を3個か4個入れ、すりこ木でよくする。すりながら、人肌くらいにさましただし汁を少しずつ混ぜる。熱すぎては、おろした山芋がかたまってしまうし、冷たすぎてはなじみにくい。
– 薬味には、青のりとおろしわさびを用意する。
– ご飯は麦飯が合うが、麦の量は3分の1から半分くらいまで入れておく
自然薯掘りのエチケットは自分の堀った穴を埋めること、もうひとつはつるに近い部分の山芋を数センチ残して土に埋めておくことです。ムカゴから育った自然薯は、食べられる前に5年もかかりますが、こうして埋めておけば、3年もたつとまた掘り出すことができるのです。
焼き味噌の作り方
ごま油をたっぷりひいた朴葉(ほおば)に、刻みネギや野菜に味噌とごま油を少々まぶして、金網の上にのせて、じんわりと炒めたもの。
最も単純なカタチは、ネギとおろし生姜、味噌の3品だけのものですが、大切なのは、ネギをごく薄く切ること。
刻みネギの厚みが、4ミリもあっては、別な料理になってしまいます。
ねぎの他に、ナス、生椎茸がよく合いますし、春先には、摘みたてのヨメナ、ミツバなどを加えます。山うどを太目に切って入れ、半透明になるくらいに火を通し、カリカリと食べるのもおいしいものです。
その他
自分の散歩する範囲は、なんだかみんな自分の庭になったような気分です。昔の殿様は、領地を歩くとき、こんな気分だったのかな
親しい人どうしで食事をすることは楽しいことですし、食事を作って食べていただくこともまた、楽しみです。でも、どんなカタチをとるにしても、家事を受け持った者は、食卓で気を配り、食事の進行を司っているのです。楽しい時間には違いないけれど、純粋にものを味わう喜びとは少し違うのです。私はこの少しのずれを意識した者にとっては、ひとりっきりで食事を作って味わうのも、別な楽しみになるに違いないのです。
「お父さん、もう科学は進歩しなくていいと思うよ。なぜって、ぼくたちにはなんにも足りないものがないから、これでもういいんだよ。」
子どもをとらえているインスタント食品の威力に恐れいってしまいました。
Hiroのメモ書き
今は野草についての知識が多い人も減ってきているように感じるので、こういう方の知識が一冊の本にまとめられているのは、本当にありがたいです。
けっこう昔に出版された本なのですが、今の時代の方が受け入れられるのではないかと思いました。
受け入れられる、というか、憧れる生活というか。多くの人がスローライフを目指してますし。
それに「野草について物知りな人」ってなんかカッコイイんですよね。個人的にも憧れるのですが、皆さんはいかがでしょうか?